AIプロジェクトの契約で、最初に必ず出てくる問いがある。「これは請負ですか、準委任ですか」。
購買部門も法務も、この二択で考える。そして多くの場合、ベンダー側が「AIは成果を保証できないので準委任で」と答え、発注側が渋々受け入れて、工数の消化を報酬とする契約が出来上がる。
この二択の立て方そのものが、実はもう古い。2020年4月の改正民法で準委任は2つに分かれており、そのうち一方は報酬を成果に紐づけながら、完成義務は負わないという中間形になっている。経済産業省が2025年2月に公表したチェックリストも、「請負か準委任か」を抽象的に議論することの妥当性に疑問を呈している。
本記事は、3つの契約類型を条文レベルで整理し、米国のFDE(Forward Deployed Engineer)が実際にどういう契約構造で動いているかを一次資料で確認したうえで、FDXが準委任の成果完成型を基本形として推奨する理由を示す。
本記事の位置づけ:一般的な情報提供であり、個別の契約についての法律上の助言ではない。実際の契約締結・交渉にあたっては弁護士等の専門家に確認いただきたい。
この記事の対象読者
- AI導入の見積もりを受け取り、契約形態の妥当性を判断する必要がある調達・購買部門
- ベンダーから「AIなので準委任で」と言われ、成果責任の所在に不安がある事業部門の責任者
- AI関連の業務委託契約書を新規に起こす、または既存フォーマットを見直す法務担当
- 自社の提供形態として、工数課金から成果に紐づく課金へ移りたいベンダー側の経営層
3つの類型を、条文で確認する
議論が噛み合わない最大の原因は、「準委任」という一語が2つの別物を指していることにある。まず条文で確定させる。
| 請負 | 準委任(履行割合型) | 準委任(成果完成型) | |
|---|---|---|---|
| 根拠条文 | 632条 | 656条・643条・648条 | 656条・643条・648条の2 |
| 負う義務 | 仕事の完成義務 | 善管注意義務(644条) | 善管注意義務(644条) |
| 報酬が対応するもの | 仕事の完成 | 委任事務の履行 | 委任事務の成果 |
| 原則の支払時期 | 仕事の完成後(引渡しを要するときは同時履行) | 事務処理の後(期間で定めたときは期間経過後) | 成果の引渡しと同時(引渡しを要するとき) |
| 未達のときの報酬 | 原則なし。ただし可分な部分は割合報酬(634条) | 働いた分は発生 | 可分な部分は割合報酬(634条準用) |
| 契約不適合責任 | 負う(559条・562〜564条) | 明文の規定なし | 明文の規定なし |
| 受託者からの解除 | 原則不可 | 可(651条) | 可(651条) |
条文の文言はこうなっている。
請負(632条):「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。」
成果完成型(648条の2第1項):「委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引渡しを要するときは、報酬は、その成果の引渡しと同時に、支払わなければならない。」
この2つの差は、読み飛ばされがちだが決定的である。請負は「完成する」ことを約束する契約であり、成果完成型は「成果に報酬を払う」ことを約束する契約である。 後者において受託者が負う義務は、あくまで善管注意義務(644条)のままだ。
なお648条の2第1項が直接定めているのは、引渡しを要する成果についての支払時期(同時履行)である。報酬を成果に紐づけること自体は当事者の合意によるもので、条文はその合意があった場合の扱いを定めている、という関係になる。
つまり成果完成型は、報酬の条件だけを成果に紐づけ、完成の債務は負わせない構造になっている。世の中の解説には「成果完成型は成果物の完成・納品義務がある」と書いているものが少なくないが、条文上そうは読めない。ここを取り違えると、交渉で不要な譲歩をすることになる。
ただし上の表は当事者が何も合意しなかったときに民法が埋める初期値である。成果の引渡し義務や品質水準を契約に書けば、その義務は契約から生じる。準委任だからといって、水準に達しない仕事をして責任を問われないわけではない。善管注意義務違反があれば債務不履行責任は生じる。この点は後述の経産省チェックリストも明記している。
「全部かゼロか」ではない — 634条の準用
成果完成型でもう1つ効いてくるのが、648条の2第2項による634条の準用である。634条はこう定める。
「請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。」
適用されるのは、(1)注文者(準委任では委任者、すなわち発注側)の責めに帰することができない事由で完成できなくなったとき、(2)完成前に解除されたとき、の2つである。条文が見ているのは発注側の帰責事由の有無であり、受託者側に債務不履行があった場合の損害賠償は、この割合報酬とは別の問題として残る。
これが実務上大きい。成果完成型は「成果が出なければ1円も払わない」契約だと誤解されがちだが、途中まででも発注側が利益を受けている部分については、割合に応じた報酬が請求できる。AI開発のように途中で前提が崩れうる仕事において、この可分性の逃げ道があるかないかは、受注する側の価格設定を大きく変える。
なぜAI開発で請負が機能しにくいのか
経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(2018年6月、1.1版2019年12月)は、AIモデルが学習用データセットに基づく帰納的な手法で開発されるという技術的背景を踏まえ、AIモデルに関する完成義務の設定や性能保証が必ずしも容易でないと指摘している。同ガイドラインが提唱した「探索的段階型」の開発方式(アセスメント/PoC/開発/追加学習の4段階に分け、段階ごとに契約する)は、この不確実性への対応策である。
請負を選んだ場合に何が起きるかは、構造で決まっている。
リスクプレミアムが価格に乗る。 完成義務を負う以上、受注側は達成できない可能性を見積もりに織り込む。精度目標が高いほど、上乗せは大きくなる。
スコープが安全側に寄る。 確実に完成できる範囲しか受けられないため、「やってみないと分からないが効果は大きい」領域が提案から落ちる。AI導入で本当に価値が出るのは、たいていその落ちた側にある。
注文者側の解除も動きにくい。 641条は「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と定めるが、損害賠償が条件である。前提が崩れたと分かった時点で止めるコストが高い。
一方の準委任は651条により各当事者がいつでも解除できる(不利な時期の解除等では損害賠償が要る)。探索的に進める仕事との相性は、この一点だけ見ても違う。
しかし履行割合型は「成果を問わない」構造を作る
では履行割合型にすればよいかというと、そちらはそちらで別の病理を持つ。この類型では、報酬が対応するのは成果ではなく委任事務の履行そのものである(648条2項。中途で終了した場合の割合報酬は3項)。実務ではこれが稼働時間×単価の特約として書かれるため、報酬の算定根拠が投入工数に寄る。
受託者が善管注意義務(644条)を負うことに変わりはなく、水準に達しない仕事をすれば債務不履行を問われうる。それでも、「成果が出たかどうか」は報酬の条件に入らない。 ここが構造上の弱点である。
この構造の問題は、日本より先に米国の政府調達で言語化されている。FAR(連邦調達規則)16.601(c)は、日本の履行割合型に相当するTime-and-Materials契約について、こう書く。
"A time-and-materials contract provides no positive profit incentive to the contractor for cost control or labor efficiency. Therefore, appropriate Government surveillance of contractor performance is required..." (T&M契約は、コスト管理や労働効率について受注者に何ら積極的な利益誘因を与えない。したがって、政府による適切な履行監視が必要となる)
同(c)は、T&Mを使えるのは「契約時点で作業の範囲や期間を正確に見積もること、または費用を合理的な確度で見込むことが不可能な場合に限る」とする。さらに(d)は制限を置いており、他に適した契約類型がないという決定書(Determination and Findings)を契約担当官が署名しなければ使えず((d)(1)。基本期間とオプション期間の合計が3年を超える場合はさらに上位の承認が要る)、契約には上限価格を設け、超過分は受注者のリスクとすることを求めている((d)(2))。
要するに米国の政府調達では、時間・材料に対して支払う契約は書面で正当化しないと使えず、しかも上限を切って使う類型として扱われている。日本のAI案件で「AIだから準委任で」と言われ、上限も正当化もないまま素通りしている類型が、である。
念のため付け加えると、FARは米国政府の調達規則であり、日本の民法上の準委任がこれに拘束されるわけではない。ここで参照しているのは条文の効力ではなく、時間に対して払う契約に何の誘因が働かないかという設計上の指摘である。
もう1つの副作用 — 偽装請負リスク
履行割合型には労務管理上の副作用もある。工数を報酬の根拠にする以上、発注側は工数の投入状況を管理したくなり、常駐であれば作業指示に近い関与が発生しやすい。
厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号)は、契約の名称ではなく実態で労働者派遣かどうかを判断する。準委任という契約名は、指揮命令の実態がある状態を守ってくれない。
成果を報酬の条件にする成果完成型では、発注側が管理すべき対象が「工数」から「成果」に移る。日々の作業指示をしなくても契約が回る設計にしやすい、というのが構造上の利点である。
ただし報酬方式を変えただけでリスクが消えるわけではない。37号告示が見るのは指揮命令の有無だけではなく、労働時間や服務規律の管理を受託者が自ら行っているか、資材・機材や企画・技術を自ら調達して事業として独立しているか、といった点も含まれる。契約類型の変更は、現場の関与の仕方と受託者側の労務管理をあわせて設計して初めて効く。
「型」より先に決めるべきもの — 経産省2025年チェックリスト
経済産業省は2025年2月18日、「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を公表した。生成AIの普及を踏まえ、AI利活用に関する契約を利用型契約(汎用的AIサービスの利用)と開発型契約(カスタマイズ型・新規開発型)に大別して整理したものである。
このチェックリストは、請負・準委任の議論そのものに一歩踏み込んでいる。
「これらの民法上の典型契約を前提とする契約の性質の区分は、あくまでも当事者間で合意がない場合の補充的なルールを定めるにすぎない。そのため、開発型契約が準委任契約か請負契約のどちらに分類されるかを抽象的に議論することの妥当性は検討が必要である。」
「対象となる開発型契約が準委任契約であるか、それとも請負契約は相対的なものであり、むしろユーザがベンダに対して、成果の内容や水準をどの程度求めるかが重要な論点となる場合が少なくない点に留意が必要である。」
型は結論ではなく、合意がないときの穴埋めルールである。先に決めるべきは成果の内容と水準であって、契約類型の名前ではない。この順序を逆にしている交渉が、実務では非常に多い。
2025年の踏み込み — モデルとシステムを分けた
同チェックリストにはもう1つ、押さえておくべき変化がある。AI編の「完成義務の設定や性能保証が容易でない」という整理はAIモデルを直接の開発対象とする場合、特に新規開発型において依然として妥当だとしたうえで、こう続けている。
「AIモデルそのものではなく、AIモデルを含むAIシステムを開発する場合には、AIモデルの出力等の不確実性を十分に考慮したシステム設計・開発が求められることも想定される。このような場合、開発対象であるAIシステムの実現について、ベンダが一定の担保責任を負うことが合理的な場面も考えられる。」
「AIだから準委任」は2018年の整理である。基盤モデルを外部から調達し、その上にシステムを組む2026年の案件では、モデルの精度は保証できなくてもシステムの挙動は担保できる場面が増えた。不確実性を理由に成果責任から降りる論法は、以前ほど通らない。
米国のFDE契約はどうなっているか
FDEモデルの本家であるPalantirは、実際にどういう契約で動いているのか。ここは一次資料で確認する価値がある。
前提:米国には請負/準委任という法定類型がない
米国の商用サービス契約は、一般にMSA(基本契約)+SOW(作業範囲記述書)の組み合わせで構成される。民法典のような契約類型の名前で性質が決まるのではなく、SOWに書かれた受入基準(acceptance criteria)と支払スケジュールが契約の性質を決める。
日本の交渉が「型の名前」に時間を使いがちなのは、この違いによるところが大きい。前節の経産省チェックリストが「成果の内容や水準をどの程度求めるか」を本丸だとしたのは、実質的に米国型の考え方に近い。
Palantirの10-Kが示す実際の構造
Palantirの2025年度Form 10-K(2026年2月17日提出)の収益認識の記述は、FDEの契約構造について通説とかなり違う姿を示す。
プロフェッショナルサービスは期間提供型である。 10-Kはこう書く。
"Professional services are on-demand, whereby the Company performs services throughout the service period; therefore, the revenue is recognized over the related term." (プロフェッショナルサービスはオンデマンドであり、サービス期間を通じて役務を提供する。したがって収益は当該期間にわたって認識される)
ここで確認できるのは会計上の収益認識であって、契約書に検収条項があるかどうかではない。それでも、成果物の完成・検収を収益認識の起点に置いていないという事実は、この役務が納品物ベースではなく期間提供型であることを示している。日本語の類型に引き直すなら履行割合型に近い、というのはここからの推測である。
そして、少なくとも米国政府調達においては、非商用の開発役務を受託しないと明言している。 同10-Kのリスク要因(政府が商用品ではなく非商用の開発役務を調達しうる、という項)に次の一文がある。
"We sell commercial items and services and do not contract for non-commercial developmental services." (当社は商用品目・商用サービスを販売しており、非商用の開発役務は受託しない)
文脈は連邦調達である。FASA(10 U.S.C. § 2377、41 U.S.C. § 3307)は商用品・商用サービスの調達を原則とするが、政府側が非商用の開発役務の調達を選ぶこともある——その場合に自社が受注できないことをリスクとして開示している、という記述だ。この一文が否定しているのは非商用の開発役務の受託であって、民間顧客向けのカスタマイズ契約一般ではない。
それでも、収益の構成が示すものは明確である。売っているのはソフトウェアのサブスクリプション(ライセンス+O&Mが単一の履行義務)であり、プロフェッショナルサービスはその導入と定着を支える期間提供型の役務として、別の履行義務に置かれている。FDEの稼働は、それ自体が売り物というより、プラットフォームを使える状態にするための投入として構成されている。
読み取れる構造 — 成果責任は契約書ではなく「更新」が担保している
ここから読み取れるFDEモデルの姿は、こう整理できる(10-Kの記述からの推測であり、個別契約の条項を確認したものではない)。FDEの成果責任は、役務提供契約の中ではなく、サブスクリプションが翌期も更新されるかどうかで担保されている。 小さく入って価値を証明し、用途とデータ領域を広げていく。成果が出なければ更新されず、売上が消える。契約書に成果報酬条項を書かなくても、経済的な帰結は成果に連動する。
これは日本企業がそのまま模倣できるモデルではない。 更新で回収できる自社プロダクトを持たない実装支援会社が同じ構造を真似ると、成果責任がどこにも載っていない工数契約だけが残る。プロダクトの更新という担保がないなら、成果コミットは契約側に載せるしかない。 ここがFDXの出発点である。
成果課金は、プロダクト側では既に標準化しつつある
参考として、AIエージェント製品には成果単位で値付けしている例がある。Intercomの「Fin」は公開価格で1アウトカムあたり$0.99とし、課金対象となるアウトカムを「顧客が解決を確認した」「Finの回答後に追加の依頼がない」「Finがワークフロー(引き継ぎを含む)を完了した」と定義したうえで、1会話につき課金は1回までと明示している。
成果に払うという値付けは、少なくとも商用製品では実際に成立している。 ただしこれを個別の実装支援にそのまま持ち込めるわけではない。会話単位の解決は測定が容易で母数も大きく、単価も小さい。業務再設計を伴う実装支援は、成果の測定可能性・責任分担・採算のどれもが違う。それでも「成果を定義して値付けする」こと自体が不可能ではないと示している点で、参照する価値がある。
FDXが準委任(成果完成型)を推奨する理由
以上を踏まえ、本記事はAX(AI Transformation)の実装契約について、準委任(成果完成型)を基本形として推奨する。理由は4つある。
1. 完成義務に伴うリスク負担を抑えられる。 請負では、完成できない可能性の分だけ見積もりに上乗せが乗る。成果完成型はその負担を軽くできる。ただし成果未達なら報酬を取り損なうリスクは残るため、未達・中止時の精算をどう設計するかで価格は変わる。 上乗せがゼロになるわけではない。
2. 工数の消化が目的化しない。 報酬の条件が成果である以上、「予定工数を使い切ること」は債務の履行にならない。FAR 16.601(c)が指摘する誘因の欠落を、契約構造で塞げる。ただし成果の定義が甘ければ同じ問題が戻ってくる。
3. 部分的な成果でも精算できる。 648条の2第2項が準用する634条により、可分な部分で発注側が利益を受けているなら割合報酬になる。「全部かゼロか」を避けられることが、探索的な仕事を受けられる条件になる。
4. 偽装請負リスクを下げる設計に持っていきやすい。 管理対象が工数ではなく成果になるため、日々の作業指示なしで契約を回せる。ただし前述のとおり、受託者側の労務管理と独立性の確保が伴って初めて意味を持つ。
ただし成果完成型は、成立条件を満たさないと機能しない。「成果」を書けないなら、この類型は選べない。
成立条件 — 成果をどう書くか
悪い書き方と、良い書き方
| 書き方 | 何が起きるか | |
|---|---|---|
| 悪い | 「問い合わせ対応時間を50%削減する」を報酬全額の条件にする | 問い合わせの質や量は外部要因で動く。達成・未達の判定が争いになる |
| 悪い | 「AIチャットボットを開発し納品する」 | 納品物しか書いていないため、何をもって足りるかが決まらない。検収時に完成義務の議論へ戻る |
| 良い | 「対象10業務のうち8業務で、AIの一次回答が人手の修正なしに通る状態」+評価データ・判定者・測定期間・前提が変わった場合の扱いを併記 | 判定の手続きまで決まるため、検収できる |
原則はこうなる。基本報酬の条件は「到達した状態」で書き、KPIの数値そのものは基本報酬の条件に据えない。 数値を全額の条件にすると、受注側が制御できない外部要因まで背負うことになり、結局その分の上乗せが価格に戻ってくる。
ただしKPI連動をやめろという話ではない。 基本報酬の上に成果報酬を積む形——「基本は状態の達成、上乗せは業務KPIの改善幅に連動」——であれば、外部要因のリスクは上乗せ分に限定される。この2階建ての設計はFDE導入コストガイドで扱っている成果報酬併用型そのものであり、本記事の推奨と矛盾しない。分けるべきは「全額の条件」と「上乗せの条件」である。
そして「到達した状態」で書けば安全、というわけでもない。上の良い例の「8業務で人手の修正なし」も、どのデータで、誰が、いつ判定するかが決まっていなければ数値と同じく争いになる。状態で書くことと、判定の手続きを書くことは別の作業である。
契約に必ず入れる4項目
- ベースラインの測定方法と測定時期:着手前の実測値がなければ、改善したかどうかを誰も判定できない
- 成果の可分性:フェーズを切り、フェーズごとに成果と報酬を対応させる。634条の割合報酬が要求するのは「可分な給付」と「発注側の受益」であって分割の明文化ではないが、書いておかないと可分性も受益の範囲も後から争いになる
- 中止基準:どの状態になったら止めるかを、開始前に合意する
- 移管の完了条件:ドキュメント・コード・運用手順が誰にどの形で渡るか
段階ごとの使い分け
全工程を1本の契約で締結する必要はない。経産省ガイドラインの探索的段階型に沿って、段階ごとに切る。
| 段階 | 推奨類型 | 理由 |
|---|---|---|
| アセスメント | 履行割合型 | 何が成果になるかを決める段階。成果を先に定義できない |
| PoC | 成果完成型 | 「次に進むかを判断できる材料の提出」を成果にできる |
| 実装 | 成果完成型 | 「動作する状態」を成果にできる。仕様が完全に固まっているなら請負も選択肢 |
| 運用・追加学習 | 履行割合型/成果完成型 | 継続的な改善が主目的。改善サイクルの内製移管を成果に据えるなら成果完成型 |
アセスメントでは履行割合型が有力な選択肢になる。 ここで成果を無理に定義しようとすると、定義できる範囲=既に分かっている範囲に調査が縮む。成果を定義するための段階に、成果の定義を要求してはいけない。
失敗パターン
契約類型だけ変えて、成果を書かない。 「成果完成型で」と合意したのに、成果欄が「AI導入支援一式」のままになっている。この場合、紛争になれば実態で判断されるため、類型の名前は守ってくれない。
ベースラインを測らずに始める。 着手後に「改善したのか」を議論しても、比較対象がないため水掛け論にしかならない。測定に2週間かける価値は、契約全体の判定可能性に効く。
フェーズを切らずに12ヶ月の成果完成型を結ぶ。 可分性と受益の範囲が曖昧なため、途中で前提が崩れたときに634条の割合報酬をめぐって争いになる。受注側は結局その分の上乗せを価格に乗せることになり、成果完成型にした意味が薄れる。
KPIの数値を報酬全額の条件にする。 前述のとおり、外部要因の変動を受注側に背負わせる形になる。判定時期に市況が変わっていた場合、双方が納得できる着地がなくなる。上乗せの成果報酬として置くなら問題は小さい。
運用フェーズを別契約に切り出したまま放置する。 実装の成果が「動作する状態」で完結してしまい、定着しなかった場合の責任がどこにも残らない。
FAQ
Q1. 準委任(成果完成型)でも、成果が出なければ報酬はゼロになるのか?
A. 必ずしもゼロにはならない。648条の2第2項が634条を準用しており、発注側(委任者)の責めに帰することができない事由で完成できなくなった場合や、完成前に解除された場合で、可分な部分の給付によって発注側が利益を受けているときは、その割合に応じた報酬を請求できる。法律上の要件は「給付が可分であること」と「発注側がその部分から利益を受けること」であって、フェーズ分割が明文化されていること自体が要件ではない。ただし分割せずに走ると、可分性も受益の範囲も後から争いになる。フェーズを切って書いておくのは、要件ではなく実務上の備えである。
Q2. 成果完成型は、実質的に請負と同じではないのか?
A. 違う。民法の初期値としては、請負が仕事の完成義務(632条)と契約不適合責任(559条・562〜564条)を負うのに対し、成果完成型で受託者が負うのは善管注意義務(644条)にとどまる。成果に紐づくのは報酬の条件であって、完成の債務ではない。
ただし「未達なら責任を負わない」という意味ではない。善管注意義務を尽くしていなければ債務不履行責任は生じるし、契約に成果の引渡し義務や品質水準を書けばその義務は契約から生じる。差が出るのは、何も書かなかったときにどちらへ倒れるかである。
Q3. 「AIは成果を保証できないから準委任で」というベンダーの説明は正しいのか?
A. 半分は正しく、半分は古い。経産省のガイドラインAI編が指摘するとおり、AIモデルそのものの性能保証は帰納的な開発手法ゆえに容易でない。ただし2025年2月の契約チェックリストは、AIモデルではなくAIモデルを含むAIシステムを開発する場合には、ベンダが一定の担保責任を負うことが合理的な場面も考えられるとしている。基盤モデルを調達して業務システムを組む案件で、モデルの不確実性を理由に成果責任を一切負わないという説明は、現在では通りにくい。
Q4. 発注側から見て、成果完成型と履行割合型ではどちらが安く済むのか?
A. 単価だけを見れば履行割合型が安く見えることが多い。しかし履行割合型は報酬の算定根拠が投入工数に寄るため、成果が出るまでの総額が読めない。比較すべきは月額単価ではなく、成果に到達するまでの総額と、到達しなかった場合に支払う額である。 その観点では、フェーズを切った成果完成型のほうが上限が読みやすい。
Q5. 米国のFDEは成果報酬契約なのか?
A. 少なくとも公開資料からは、成果報酬条項で担保されているようには見えない。Palantirの2025年度Form 10-Kによれば、プロフェッショナルサービスはオンデマンドで提供され、収益は期間にわたって認識される。成果物の完成・検収を収益認識の起点に置いていない、ということである。
ここから先は10-Kの記述からの推測になるが、成果責任は契約条項ではなくサブスクリプションが更新されるかどうかで担保されていると読むのが自然だろう。個別契約に検収条項があるかどうかは公開資料からは分からない。いずれにせよ、自社プロダクトを持たない実装支援会社が役務の期間提供だけを真似ると、成果責任がどこにも載らなくなる。
Q6. 成果完成型にすると、偽装請負のリスクは本当に下がるのか?
A. 下げやすくはなるが、免罪符にはならない。37号告示は契約の名称ではなく実態で判断する。しかも見ているのは指揮命令の有無だけではなく、労働時間や服務規律の管理を受託者が自ら行っているか、資材・機材や企画・技術を自ら調達して事業として独立しているか、といった点も含む。成果完成型は日々の作業指示なしで契約を回せる設計に持っていきやすい、というのが構造上の利点であって、それ以上のものではない。契約類型の変更と併せて、現場の関与の仕方と受託者側の労務管理を設計する必要がある。
Q7. 既存の準委任契約フォーマットを、そのまま成果完成型に流用できるか?
A. できない。既存フォーマットの多くは報酬条項が「稼働時間×単価」で書かれており、これは履行割合型の設計である。成果完成型にするには、成果の定義、検収の方法と時期、可分な部分の取り扱い、中止基準を書き足す必要がある。報酬条項だけを差し替えて成果の定義を書かない、という改訂になりやすい。ここが実質的な作業量の大半を占める。
次に読むべき記事
- FDEとSES・SI・戦略コンサルの違い — 契約形態を含む8軸での比較
- FDE導入コストガイド — 単価型・チーム型・成果報酬併用型の費用構造
- AIコンサルティングの選び方 — 撤退条件と移管マイルストーンの決め方
- AI内製化の進め方 — 移管の完了条件をどう設計するか
まとめ
- 「請負か準委任か」は二択ではない。2020年4月施行の改正民法で準委任は履行割合型と成果完成型(648条の2)に分かれている
- 成果完成型は、報酬の条件だけを成果に紐づけ、完成義務は負わせない中間形である。受託者が負うのは善管注意義務にとどまる
- 「成果が出なければゼロ」ではない。648条の2第2項が634条を準用し、可分な部分で発注側が利益を受けているなら割合報酬になる
- 履行割合型は、報酬が対応するのが成果ではなく委任事務の履行であり、算定根拠が投入工数に寄る。FAR 16.601は同種のT&M契約について「コスト管理や労働効率について受注者に何ら積極的な利益誘因を与えない」と明記し、他に適した類型がないという決定書と、上限価格がなければ使えない扱いにしている
- 経産省の2025年2月チェックリストは、典型契約の区分を「合意がない場合の補充的なルールにすぎない」とし、成果の内容と水準をどこまで求めるかが本丸だとする
- 同チェックリストは、AIモデル開発とAIシステム開発を分け、後者ではベンダが一定の担保責任を負うことが合理的な場面もあるとした。「AIだから準委任」は2018年の整理である
- Palantirの10-Kでは、プロフェッショナルサービスは期間にわたって収益認識され、米国政府調達については非商用の開発役務は受託しないと明記されている。ここからの推測になるが、FDEの成果責任は契約条項ではなくサブスクリプションの更新が担保していると読める
- プロダクトの更新という担保を持たない実装支援会社は、成果コミットを契約側に載せるしかない。 本記事が成果完成型を推奨する理由はここにある
- 成立条件は成果の書き方である。基本報酬の条件は到達した状態で書き、KPIの数値は上乗せの成果報酬に置く。 状態で書くだけでは足りず、評価データ・判定者・測定期間まで決めて初めて検収できる。ベースライン測定・可分性・中止基準・移管条件の4項目を必ず入れる
FDXの支援範囲
FDXはAX(AI Transformation)の実装パートナーとして、業務の分解から実装・現場定着・運用移管までを対応領域とする。
本記事の文脈でFDXが担うのは、契約の法的検討ではなく、その手前にある業務要件と成果指標の設計である。対象業務を分解し、ベースラインを実測し、「どの状態に到達すれば成果と言えるか」を検収可能な粒度まで書き下ろすところまで。契約書の作成・条項の妥当性判断・法的リスク評価は、弁護士等の専門家の領域であり、FDXはそこには立ち入らない。
この分担にしているのは、順序の問題でもある。成果を定義できないまま走り出したプロジェクトは、終わり方も定義できない。 逆に成果が業務の言葉で書けていれば、それを契約条項に落とす作業は法務側で完結する。
自社の案件で成果をどう書けるかを具体で詰めたい場合はお問い合わせから、まず自社の状況を整理したい場合はAX診断からどうぞ。
なお本記事は一般的な情報提供であり、個別の契約についての法律上の助言ではない。
出典・参考文献
- 民法(明治29年法律第89号)第632条・第634条・第641条・第643条・第644条・第648条・第648条の2・第651条・第656条(e-Gov法令検索、2026年9月9日確認)
- 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月18日公表、同年2月20日一部差替え。契約の性質決定、AIシステム開発における担保責任の記述)
- 経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」AI編(2018年6月、1.1版2019年12月。探索的段階型開発方式、完成義務・性能保証の困難性)
- 厚生労働省「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正 平成24年厚生労働省告示第518号)
- FAR(米国連邦調達規則)16.601 Time-and-materials contracts((c) 利用条件と利益誘因の欠落、(d)(1) 決定書(D&F)、(d)(2) 上限価格。2026年9月9日確認)
- Palantir Technologies Inc.「Form 10-K(2025年度、2026年2月17日提出)」(プロフェッショナルサービスの収益認識。非商用開発役務を受託しない旨の記載は、米国政府調達に関するリスク要因の中の記述)
- Intercom「Pricing」(Finの1アウトカムあたり$0.99、課金対象アウトカムの定義。2026年9月9日確認)