2026年4月24日、デジタル庁が政府向け生成AI環境「源内」の一部をOSSとして公開した。GitHubで誰でも読める。
報道の見出しは「ベンダーロックインを断つ」「官民連携の促進」で揃っている。だが実際にリポジトリとデジタル庁の公開資料を読むと、そのまとめでは落ちてしまう事実がいくつも出てくる。
- 源内WebのうちAWS以外では使えないファイルが17個ある。しかもそれは、源内を元のOSSから差別化している中核機能そのものである
- Pull Requestは受け付けていない。 Issueも「データ損失・サービス停止・法令違反・重大なアクセシビリティ障壁」に限定されている
- デジタル庁の資料には「永続的なメンテナンスを保証するものではなく、将来的にOSSの公開を終了する場合がある」と明記されている
- 「国内開発のLLMを選定・活用する」という方針は、汎用チャット側と国産モデルの評価検証側で別のトラックで進んでいる。国産3モデルについては、2026年9月から11月にかけてA/Bテストで評価する計画が公表されている
本記事は、源内を一次資料(GitHubリポジトリ、デジタル庁の公開資料、開発担当者本人の技術記事)から読み解く。運用体制の数字だけは講演報告という二次資料に依拠しており、その箇所は明記する。批判が目的ではない。約18万人を対象とする実証環境を1〜2人のインフラ担当で回している設計は、企業がAI基盤を作るときにそのまま効く。持ち帰れるものを取りに行く。
この記事の対象読者
- 自治体・公共向けにAIサービスを提供しようとしており、源内OSSの採用可否を判断する必要がある事業者
- 社内に複数のAIアプリを展開したいが、認証・ログ・UIを毎回作り直していて増やせない情報システム部門
- 国産LLMの採用を検討しており、政府がどのモデルをどう選んだかを知りたい推進担当者
- AI基盤の運用体制を設計中で、少人数で回す前提の設計例を探しているアーキテクト
源内とは何か
源内(GenAI)は、デジタル庁が開発・運用する行政職員向けの生成AI利活用基盤である。名前の由来は、生成AIの英語略称GenAIと、さまざまな生成AIアプリケーションの発明が集まってほしいという願いの2点だと開発担当者が書いている。
デジタル庁の公開資料から、規模と現在地を数字で押さえる。
| 大規模実証 | 全府省庁の政府職員 約18万人を対象(2026年5月〜2027年3月) |
| 展開状況 | 2026年5月29日時点で約10万人が利用可能 |
| 扱える情報 | 機密性2情報まで入力可(デジタル庁内。府省庁は各ルールに基づき設定) |
| AIアプリ | 法制度調査支援AI、国会答弁検索AIなど約30種類をデジタル庁が内製 |
| 共通データ | 政府共通データセットを調達・提供の対象としている(官報79年10か月分、昭和22年5月〜など) |
| 立ち上がり | 2025年5月にデジタル庁内で試験導入(職員約1,200人以上) |
開発担当者は源内の位置づけをこう書いている。
「このプロジェクト「源内」は、直近のデジタル庁職員の生産性改善だけでなく、ガバメントAIの推進に対する課題の解決も視野に入れており、生成AIのサービス提供というよりも、技術検証の意味合いが大きいです。」
サービス提供そのものより技術検証に重心がある、という自己規定である。後述するOSSの扱いを読むときの前提になる。
公開されたのは何か — 2つのリポジトリ
公開は2つのGitHubリポジトリに分かれている。
| digital-go-jp/genai-web | digital-go-jp/genai-ai-api | |
|---|---|---|
| 中身 | 源内Web(AIインターフェース) | 行政実務用AIアプリ |
| 言語 | TypeScript(React / AWS CDK) | Python(CDK / Terraform) |
| 由来 | AWSのOSS「Generative AI Use Cases(GenU)」がベース | デジタル庁が内製 |
| ライセンス | MIT。ただし17ファイルがAmazon Software License | MIT |
| ドキュメント | CC BY 4.0 | CC BY 4.0 |
源内Webに対してデジタル庁が加えた変更は、READMEに列挙されている。チーム管理機能、AIアプリ管理機能、外部マイクロサービスとして構築した生成AIアプリの追加・実行機能、デジタル庁デザインシステムの適用、庁内アクセシビリティチームによる試験、運用に必要な監視機能。READMEは「GenUとは独立して開発を進めており、GenUとは異なる機能構成となっています」と明記している。
AIアプリ側のリポジトリには、ガバメントクラウドに採択された3つのクラウドそれぞれのテンプレートが入っている。
- Amazon Web Services:行政実務用RAG(検索拡張生成)の開発テンプレート
- Microsoft Azure:LLMをセルフデプロイして利用する開発テンプレート
- Google Cloud:最新の法律条文データを参照・回答する法制度AIアプリの再現可能な実装
設計の核心 — インターフェースとAIアプリを切り離す
源内で最も真似する価値があるのは、この一点である。
READMEはこう書く。「源内で利用できる行政実務用AIアプリは、源内Webとの間のプロトコルに準拠すれば、源内Webと独立した環境で構築ができ、GUI等の操作で源内への追加登録ができます。」
開発担当者はこのプロトコルを「約束」と呼び、共通化すべき対象として挙げている。通信のプロトコル、入出力の形式と項目、認証認可の方法、非同期処理の実現方法、ログ取得要件、主体認証をどちらが行うか、といった責務分離である。
実装としては、AIアプリのAPIリクエストのデータ形式(JSON)の定義から、利用者向けの実行画面が自動生成される。AIアプリを作る側は画面を作らない。
この分離が効いている証拠がある。デジタル庁自身、Google CloudのGeminiを使った行政実務用AIアプリを源内上で実行可能にしている。源内WebはAWS上にあるのに、である。
企業に置き換えると何が変わるか
社内でAIツールが増えないのは、たいてい能力の問題ではない。1つ作るたびに、認証・権限・ログ・監査・UIをもう一度作っているからである。共通の土台がないまま数を増やすほど、追加と保守の負担は積み上がる。
源内の構造は、その反復をインターフェース側に一度だけ寄せる。業務側は「約束」に従うAPIを1本立てるだけでよくなる。AIアプリを作る速度ではなく、AIアプリを増やせる構造を先に作る、という順番の話である。
1〜2人で18万人を支える運用設計
AWS Summit Japan 2026での講演を報じた記事によれば、源内のインフラ専任エンジニアは1〜2人である。この体制で40以上のテナントを運用し、新機能の開発も並行している。以下この節の数字は、この講演報告(二次資料)による。
前提として、源内はサイロモデルを採っている。省庁ごとにDynamoDBやS3を個別に構築してリソースを分離し、その境界をIAMで強制する。万一バグで他省庁のデータを参照しようとしてもIAMが防ぐ。セキュリティは上がるが、環境が独立している分、更新や管理の手間はテナントの数だけ膨らむ。
この二律背反を、宣言的インフラ管理で解いている。
- 管理者は設定変更の要件をYAML形式の指示書に書く
- GitHubにチェックインする
- それをトリガーにControl Plane内のLambda関数群が連動する
- システム構成の正本(SSoT)であるDynamoDBのテーブル「Tenant Master」に指示内容をマージし、現在のインフラ状態と比較する
- 差分が見つかったときだけデプロイを実行する
ユーザーが触る環境(Application Plane)と、それを裏側から自動構築・管理する仕組み(Control Plane)を分けている。効果は具体的である。
| 従来のやり方 | 源内 | |
|---|---|---|
| 40テナントに20アプリを配布 | 通常800回の手作業 | 指示書をチェックイン1回 |
| 新規テナントの立ち上げ | 個別構築 | 約30行の指示書1つ |
| インフラ専任 | 環境ごとに手作業が増える | 1〜2人 |
講演者の言葉は「全部を宣言にする」である。
これはハーネスエンジニアリングとは?エージェント品質の決め手で扱った原則と同じ構造をしている。品質と運用を人間の注意力ではなく、決定論的な仕組みに預ける。 対象がエージェントの出力かインフラの状態かが違うだけで、設計の考え方は同じである。
国産LLMはどこにいるのか
デジタル庁の資料は方針を明確に書いている。
「AIに関する日本の自律性確保を実現するため、源内では国内開発の大規模言語モデル(LLM)を選定・活用します。 政府による継続的な調達を通じ、国産AIの育成・強化を推進します。」
ここで大事なのは、汎用チャットで選べるモデルと、国産モデルの評価検証は別のトラックで進んでいるという点である。混ぜて読むと現在地を見誤る。
汎用チャット側
2026年7月時点で職員が選択できるのは、AWSのNova Lite、AnthropicのClaude Haiku 4.5 / Sonnet 4.6 / Opus 4.8 の4モデルである(2025年11月時点は3モデルだった)。ここは海外モデルが担っている。
国産モデル側
一方で、国産モデルは既に一部が本番に入っている。2025年12月からPreferred NetworksのPLaMo翻訳が源内を通じて政府職員に提供されている。海外の言語モデルをベースとせず設計から学習までを国内で完結している点が、採用理由として会見で挙げられている。
そして評価検証のトラックが、公募から順に進んでいる。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2025年12月2日 | 国内開発AIモデルを積極活用する方針を決定。公募開始 |
| 2026年1月31日 | 公募締切。15件の応募 |
| 2026年3月6日 | 書類審査と評価テストを経て7件を選定した結果を公表 |
| 2026年5月29日 | 企業一覧を公表。2社の辞退により、5社と契約締結済 |
| 2026年8月21日(資料の最終更新日) | うち3モデルをさくらのクラウド上で稼働させ、8月までに実験環境を構築する方針を説明 |
| 2026年9月〜11月 | 源内のチャット機能でA/Bテストによる評価を複数回実施する予定 |
| 2027年1月頃 | 評価・検証結果(一部)を公表 |
| 2027年度〜 | 優れたモデルを政府調達(有償)予定 |
3月に選定された7件(五十音順)と、5月時点で契約締結に至った5社は次のとおり。
| 事業者 | モデル | 3月選定 | 5月契約 |
|---|---|---|---|
| 株式会社NTTデータ | tsuzumi 2 | ○ | ○ |
| カスタマークラウド株式会社 | CC Gov-LLM | ○ | — |
| KDDI株式会社・株式会社ELYZA共同応募体 | Llama-3.1-ELYZA-JP-70B | ○ | — |
| ソフトバンク株式会社 | Sarashina2 mini → Sarashina3 mini | ○ | ○ |
| 日本電気株式会社 | cotomi v3 | ○ | ○ |
| 富士通株式会社 | Takane 32B | ○ | ○ |
| 株式会社Preferred Networks | PLaMo 2.0 Prime | ○ | ○ |
デジタル庁の別紙は「その後2社から辞退の申し出があったため、最終的に5社と契約を締結しました」と記している。
選定基準に「自前で動くこと」が入っている
ここが本記事の読者にとって最も重要である。公募の選定基準には、次の条件が含まれている。
「政府職員が機密性2情報を取り扱えるよう、十分なセキュリティを確保できること。具体的には、ガバメントクラウド上の推論環境で動作すること。」
APIとして外から呼ぶのではなく、政府が管理するクラウド上に推論環境を立てて動かせることが要件になっている。評価テストも、試験当日に初めて開示される50問で実施されたと公表されている。
そしてこの要件は、具体的な構成として示されている。2026年8月21日最終更新のデジタル庁資料によれば、NTTデータのtsuzumi 2、富士通のTakane 32B、Preferred NetworksのPLaMo 2.0 Primeの3モデルを、さくらのクラウド上で稼働させる。さくらのクラウドはガバメントクラウドにおける唯一の国産クラウドであり、デジタル庁はこれを「政府がガバメントクラウド上でさくらのクラウドを実利用する初めての事例(第一号案件)」と説明している。
評価方法も公表されている。源内のチャット機能で国産基盤モデルを提供し、既存の基盤モデルとのA/Bテスト(利用者にランダムかつブラインドで出力を提示し、どちらが好みかを選ばせる)で比較する。資料には「本年8月までに実験環境を構築し、本年9月~11月の期間に複数回の実験を実施する」とある。本記事の公開時点は、この予定期間に入ったところである。この資料だけでは実験の開始実績は確認できない。評価・検証結果の一部は2027年1月頃に公表予定である。
「国産LLMを使う」を3つの軸で分解する
自治体や企業が同じことをしようとするとき、次の3つは別の軸である。混同すると調達が止まる。
| 軸 | 問い |
|---|---|
| 重みの公開状況 | 重みが公開されているか。公開されていれば取得して検証できる |
| 利用許諾・契約条件 | 商用利用に事前登録や別途契約が要るか。オープンウェイトでも条件は付く |
| 実行場所 | APIとして呼ぶのか、自社・自組織の環境にデプロイして動かすのか |
源内が選定基準に据えたのは3つ目である。重みが公開されているかどうかではなく、自分たちが管理する環境で推論を動かせるかどうかが条件になっている。選定された各モデルの重みの公開状況や利用条件は、公募結果の資料には書かれていない。そこはモデルごとに別途確認する項目である。
上の5モデルについて自社で同じ構成を組めるかは、モデルごとに提供事業者へ確認するのが確実である。たとえばtsuzumi 2は、NTT西日本らがオンプレミス環境で利用できる形での提供を2026年9月から開始すると発表している。入口が「ダウンロード」か「商談」かは、モデルによって違う。
OSSのAzureテンプレートはセルフホストの実装例を含む
源内OSSに含まれるAzureのテンプレートは、Azure OpenAIのAPIを使う構成と、vLLMに対応したHugging FaceモデルをGPU上でセルフホストする構成の両方を扱っている。
後者の構成は、API Management → Application Gateway(WAFでヘッダ検証)→ GPUを積んだVM Scale Setという閉域構成で、GPUコスト対策としてAzure AutomationでVMを定期的に起動・停止する仕組みまで入っている。
そしてvLLM側の実装例として使われているのが、Preferred Networksのplamo-2-translateである。READMEは利用にあたってplamo-community-licenseを参照するよう明記している。このライセンスの条件(商用利用には事前登録が必要で、年商10億円超は別途商用ライセンスが必要)はローカルLLM比較で扱っている。政府の参照実装だからライセンスを読まなくてよい、ということにはならない。
モデル選定そのものの考え方はオープンウェイトモデルの選び方、必要なGPUの見積もりはローカルLLMに必要なGPU要件を参照してほしい。
ライセンスを読む — MITだけではない
源内WebのREADMEは、ライセンスをこう書いている。ソフトウェアはMIT、ドキュメントはCC BY 4.0。ただし、AWS Prototyping Programにより作成された一部のLambda・CDKファイルはAmazon Software License(ASL)の対象である。
対象は17ファイル。リポジトリのdocs/ASL対象ファイル.mdに一覧がある。中身を見ると、性格がはっきりする。
packages/cdk/lambda/createExApp.ts ← 外部AIアプリの登録
packages/cdk/lambda/listTeams.ts ← チーム管理
packages/cdk/lambda/repository/teamRepository.ts
packages/cdk/lib/construct/team-access-control.ts ← アクセス制御
(ほか13ファイル)
これは、源内を元のGenUから差別化している中核機能そのものである。 チーム管理、AIアプリの登録、アクセス制御。前述した「インターフェースとAIアプリを切り離す」設計を支えている部分が、ここに含まれている。
ドキュメントは正直に書いている。
「非AWS環境では、上記のASL対象ファイルをそのまま実行することは、ライセンス上だけでなく技術的にも不可能であるため、該当箇所をご自身の環境に合わせて実装し直す必要があります。」
整理するとこうなる。
| 層 | ライセンス | 他クラウドへの移植 |
|---|---|---|
| 行政実務用AIアプリ(genai-ai-api) | 全てMIT | 3クラウドそれぞれに実装例を公開 |
| 源内Web(大部分) | MIT | 可能 |
| 源内Web(17ファイル) | Amazon Software License | 不可。自前で実装し直す |
アプリ層は改変も再配布も自由である。公開された源内Webの一部はAWSでの利用に限られる。 「ベンダーロックインを断つ」という要約は、アプリ層については素直に読めるが、Web層については条件が付く。
なお、MITであることは改変・再配布の許諾であって、移植が技術的に容易であることまでは意味しない。AWSのマネージドサービスに依存した実装を他クラウドへ持っていく改修量は、ASL対象の17ファイルとは別に見積もる必要がある。
自治体向けにサービスを組む事業者なら、判断は分かれる。AWSで組むなら17ファイルごと使える。他クラウドで組むなら、差別化機能の再実装と、AWS依存部分の移植の両方を最初に見積もる必要がある。
PRを受け付けないOSS
もう1つ、採用前に読むべきものがある。両リポジトリのREADMEに同じ方針が書かれている。
「本リポジトリでは、サービスの安定運用に影響する致命的な問題に限り、Issueでの報告を受け付けています。Pull Requestは受け付けておりません。」
Issueの対象は両リポジトリ共通で、データの損失・破損、サービスが利用不能になる障害、法令・規則への違反の3つ。源内Web側にはこれに加えて、アクセシビリティ上の重大な障壁(JIS X 8341-3:2016 適合レベルAA相当)が挙げられている。対象外として明記されているのは、機能追加の要望・提案、軽微な表示崩れ・誤字脱字、パフォーマンス改善提案、コーディングスタイルの指摘、質問・使い方の相談である。
さらにデジタル庁の資料にはこうある。
「脆弱性への対応等、必要なメンテナンスを実施するため、当面の間は公開OSSの更改・修正作業を継続する。ただし、永続的なメンテナンスを保証するものではなく、将来的にOSSの公開を終了する場合がある。」
理由は公式には説明されていない。ここからは筆者の解釈になるが、約18万人を対象とする実証環境の運用責任を負っている組織が、同じコードを公開するときの現実的な形だと読める。外部PRを取り込めば、その品質と安全性の責任は公開元に戻ってくる。
また、GitHub上の受付方針と、外部への技術支援がないことは別である。デジタル庁の資料には「公開した源内のOSSを活用し、地方公共団体等向けサービスとして展開することを検討している企業からの技術的なお問い合わせに対応する」と明記されており、別の窓口は用意されている。
ただし採用する側の帰結ははっきりしている。フォークして自分で保守する前提で読む。 アップストリームが直してくれる、機能追加を提案できる、いつまでも公開されている——そのどれも前提にできない。
横展開が止まる4段階
源内の構想記事には、行政に限らずそのまま通じる整理がある。他組織の成功事例を自組織に取り入れるまでに4段階の壁があるという仮説である。
| 段階 | 壁 | 企業で起きること |
|---|---|---|
| 1 | 他の組織の成功事例を知らない | 隣の事業部が何を作ったか誰も知らない |
| 2 | 導入効果に不明瞭な点があり、コストをかけて導入する価値を見出せない | 「効果があったらしい」で終わり、稟議が書けない |
| 3 | 同様のAIアプリの導入方法がわからない | デモは見たが、自部門にどう持ってくるか不明 |
| 4 | 導入方法がわかっても実現コストが高い。特にすでに他のAIサービスを利用している場合 | 既存ツールとの重複投資になり止まる |
源内の仮説は、3つを共通化すればこの4段階が軽減されるというものである。
「記述」(ドキュメント)の共通化。 AIアプリの概要と機能、業務での具体的な効果(削減工数、コスト削減率など)とその算出方法、必要なデータ・外部システム、権利・セキュリティ上の懸念、運用費用、導入時の留意点。これが揃えば検索性と一覧性が上がり、段階1と2が軽減される。
「約束」(プロトコル)の共通化。 同じ約束に従うインターフェースを既に導入していれば、AIアプリ部分だけを調達すればよくなる。コピー構築やマルチテナント化で安価かつ迅速に実現できる。ここで段階3と4が大幅に軽減される。
「代表的な実装パターン」の共通化。 複数ファイルの入出力、非同期の大量データ処理、マニュアルなど特定書類の参照、AIが自律再実行して外部リソースにアクセスする場合。
企業で事業部ごとにAIツールが乱立して横展開しないのは、まったく同じ構造である。足りないのはアイデアではなく、「記述」と「約束」の共通化である。
企業が源内から持ち帰れるもの
| 源内の設計 | 企業での意味 |
|---|---|
| インターフェースとAIアプリの分離 | 認証・ログ・UIを1回だけ作る。業務側はAPIを1本立てる |
| リクエスト形式の定義から画面を自動生成 | AIアプリの作り手に画面を作らせない |
| サイロモデル+IAM | 部門・顧客ごとにリソースを分離し、その境界をIAMで強制する |
| 宣言的インフラ(YAML → Git → 差分デプロイ) | 手順書ではなく「あるべき状態」を管理する |
| 「記述」の共通化 | 効果・費用・前提を同じ書式で書かせ、横展開の判断材料にする |
| 段階的な公開範囲 | 全社展開の前に、1部門で技術検証として回す |
失敗パターン
OSSだから無料で使える、と読んで採用を決める。 ライセンスは層ごとに違い、17ファイルはAWS限定である。さらに保守の継続が保証されていない。採用判断に必要なのは「MITかどうか」ではなく、「自分で保守できるか」である。
PRを送って改善に参加するつもりで計画を立てる。 受け付けていない。コミュニティ型OSSの前提で採用計画を書くと、初回のフォークで詰まる。
「国産LLMだから自由に使える」と読む。 重みの公開状況・商用利用の条件・実行場所は別の軸で、モデルごとに違う。源内が選定基準に据えたのは「ガバメントクラウド上の推論環境で動作すること」であって、重みの公開ではない。
「約束」を決めずにAIアプリを増やす。 数が少ないうちは動く。増えるほど、認証とログの実装がアプリごとに散らばって保守が効かなくなる。
サイロモデルだけ真似て、宣言的な管理を入れない。 環境を分けた分だけ運用負荷が増える。源内がテナント分離を成立させているのは、Control Planeがあるからである。
FAQ
Q1. 源内のOSSをそのまま使えば、自治体向けの生成AI基盤が作れるのか?
A. AWS上で構築するなら、源内Webと同等の環境を構築できるソースコードと手順が公開されている。ただし他のクラウドで構築する場合は、Amazon Software Licenseの対象となる17ファイル(チーム管理・AIアプリ登録・アクセス制御)を自前で実装し直す必要がある。デジタル庁自身「ライセンス上だけでなく技術的にも不可能」と書いている箇所である。加えて、MITの部分もAWSのマネージドサービスに依存しており、移植の改修量は別途見積もる必要がある。
Q2. なぜPull Requestを受け付けないのか?
A. 公式に理由は説明されていない。以下は筆者の解釈である。源内は約18万人を対象とする実証環境であり、開発担当者自身が「生成AIのサービス提供というよりも、技術検証の意味合いが大きい」と位置づけている。外部PRを取り込めば品質と安全性の責任は公開元に戻るため、運用責任を負う組織としては合理的な線引きだと読める。なお、自治体向けサービス展開を検討する企業からの技術的な問い合わせには対応すると資料に明記されており、窓口が無いわけではない。
Q3. 源内で使われているLLMは国産なのか?
A. 2つのトラックが並行している。汎用チャットで職員が選べるのは、2026年7月時点でNova LiteとClaude Haiku 4.5 / Sonnet 4.6 / Opus 4.8 の4モデルで、ここは海外モデルである。一方で国産モデルも既に入っており、2025年12月からPLaMo翻訳が提供されている。さらに2026年8月21日最終更新の資料では、tsuzumi 2・Takane 32B・PLaMo 2.0 Primeの3モデルをさくらのクラウド上で稼働させ、2026年9月から11月にかけてA/Bテストで評価する計画が示されている。
Q4. 契約締結した5社の国産LLMは、自社でも同じように使えるのか?
A. モデルごとに違うので、提供事業者に確認するのが確実である。判断は「重みが公開されているか」「商用利用の許諾条件」「APIか自社環境へのデプロイか」の3軸に分けると整理しやすい。源内が選定基準に据えたのは3つ目で、ガバメントクラウド上の推論環境で動作することが条件だった。自社環境で動かせる例としては、tsuzumi 2についてNTT西日本らがオンプレミス環境向けの提供を2026年9月から開始すると発表している。
Q5. 源内OSSのAzureテンプレートは何をするものか?
A. vLLMに対応したHugging FaceモデルとAzure OpenAIのモデルをAzure上でホスティングし、APIとして提供するテンプレートである。前者のセルフホスト構成は、API Management → Application Gateway → GPU搭載のVM Scale Setという閉域構成で、Azure AutomationによるVMの定期起動・停止まで含む。vLLM側の実装例としてPreferred Networksのplamo-2-translateが使われており、利用にはplamo-community-licenseの確認が必要である。
Q6. 「記述」と「約束」の共通化は、自社ではどこから手を付ければよいか?
A. 「記述」からである。既存のAI施策について、効果の算出方法・必要なデータ・運用費用・導入時の留意点を同じ書式で1枚に揃えるところまでは、開発を伴わない。これだけで横展開の段階1と2は動く。「約束」(プロトコル)の設計は、AIアプリを継続的に増やす見込みが立ってから着手しても遅くない。
Q7. 源内は今後も公開され続けるのか?
A. 保証されていない。デジタル庁の資料に「当面の間は公開OSSの更改・修正作業を継続する。ただし、永続的なメンテナンスを保証するものではなく、将来的にOSSの公開を終了する場合がある」と明記されている。採用する場合は、フォークして自分で保守する前提で計画すべきである。
次に読むべき記事
- ハーネスエンジニアリングとは?エージェント品質の決め手 — 品質を仕組みに預ける設計
- ローカルLLM比較|日本語性能とライセンス — モデルごとのライセンス条件
- オープンウェイトモデルの選び方 — 重みが公開されたモデルの選定軸
- ローカルLLMに必要なGPU要件 — セルフデプロイの計算基礎
- AIガバナンスと実装セキュリティ|6つの制御点 — 機密情報を扱う環境の設計
まとめ
- 源内はデジタル庁の行政職員向け生成AI基盤。2026年5月から全府省庁 約18万人を対象とした大規模実証が走っており、5月末時点で約10万人が利用可能
- 開発担当者は「生成AIのサービス提供というよりも、技術検証の意味合いが大きい」と位置づけている。OSSの扱いは、この前提を踏まえて読むと理解しやすい(筆者の解釈)
- 設計の核心はインターフェースとAIアプリの分離。「約束」(プロトコル)に準拠すれば独立環境でAIアプリを作れ、リクエスト形式の定義から利用者画面が自動生成される
- 講演報告によれば、インフラ専任1〜2人で40以上のテナントを運用している。YAML指示書をGitHubにチェックインすると差分だけデプロイされる宣言的インフラが効いている
- ライセンスは層で違う。AIアプリ側は全てMITで、3クラウドそれぞれに実装例がある。源内Webの17ファイルはAmazon Software Licenseで、非AWS環境では使えない。 しかもそれはチーム管理・AIアプリ登録・アクセス制御という、源内を元のGenUから差別化している中核である。なおMITの部分も、移植にはAWS依存の改修が別途かかる
- Pull Requestは受け付けていない。 Issueも致命的な問題に限定。さらに「永続的なメンテナンスを保証するものではなく、将来的にOSSの公開を終了する場合がある」と明記されている。フォークして自分で保守する前提で読む
- 国産LLMは2トラックで進んでいる。汎用チャットは2026年7月時点でNova LiteとClaude 3種。国産側は2025年12月からPLaMo翻訳が提供され、契約5社のうち3モデル(tsuzumi 2 / Takane 32B / PLaMo 2.0 Prime)をさくらのクラウド上で稼働させ、2026年9〜11月にA/Bテストで評価する計画である。公募は15件応募→7件選定→2社辞退→5社契約という経緯をたどった
- 選定基準に「ガバメントクラウド上の推論環境で動作すること」が入っている。 重みが公開されているかではなく、自分たちが管理する環境で推論を動かせるかが条件になっている
- 横展開が止まる4段階(知らない/効果が不明瞭/方法がわからない/コストが高い)は企業でも同じ。効く打ち手は「記述」と「約束」の共通化である
FDXの支援範囲
FDXはAX(AI Transformation)の実装パートナーとして、業務の分解から実装・現場定着・運用移管までを対応領域とする。
源内から読み取れる最大の教訓は、AIアプリを1つ作ることと、AIアプリを増やせる構造を作ることは別の仕事だという点である。後者を飛ばしたまま数を増やすほど、追加と保守の負担が積み上がる。
自社でAIアプリをどう増やせる形にするか、どのモデルをどこで動かすかを業務要件から整理したい場合はお問い合わせから、まず現状を把握したい場合はAX診断からどうぞ。
出典・参考文献
- デジタル庁「genai-web(源内Web)」README・
docs/ASL対象ファイル.md(ライセンス構成、ASL対象17ファイル、Issue/PR対応方針。2026年9月16日確認) - デジタル庁「genai-ai-api(源内AIアプリ)」README・
azure/genai-azure/README.md(3クラウドのテンプレート、vLLM構成、plamo-2-translateの利用。2026年9月16日確認) - デジタル庁 戦略・組織グループ AI実装総括班「(参考資料)ガバメントAI源内の展開状況」(2026年5月。約18万人を対象とする実証、展開スケジュール、機密性2の条件、OSS公開範囲とメンテナンス方針、自治体向けサービスを検討する企業からの技術的問い合わせへの対応)
- デジタル庁「ガバメントAIで試用する国内大規模言語モデル(LLM)の公募結果」(2026年3月6日。応募15件・選定7件、選定基準、当日開示の50問評価テスト、今後のスケジュール)
- デジタル庁「令和8年度(2026年度)に源内で評価検証を行う企業一覧」(2026年5月29日。契約締結済5社、2社辞退の経緯)
- デジタル庁「ガバメントAI 源内における国産クラウド上での国産基盤モデルの試用開始について」(2026年8月21日最終更新。さくらのクラウド上で稼働させる3モデル、A/Bテストによる評価方法、2026年9〜11月の実験予定、2026年7月時点の選択可能モデル4種)
- 大杉直也(デジタル庁)「ガバメントAI、プロジェクト「源内」の構想紹介」(2025年11月11日。名前の由来、3つの最重要事項、横展開の4段階、「記述」「約束」「代表的な実装パターン」)
- 名須川竜太「行政機関18万人を支える「源内」 わずか1〜2人での運用を実現した“一見手の込んだ仕組み”」ITmedia エンタープライズ(2026年9月8日。AWS Summit Japan 2026における大月氏の講演報告。サイロモデル、Application/Control Plane、SSoT、40テナント×20アプリ。本記事で唯一の二次資料であり、運用体制の数値はこの報告による)
- Preferred Networks「plamo-2-translate モデルカード」(PLaMo Community License)
※ 引用中の強調(太字)は編集部による。英数字前後の空白や算用数字の表記は読みやすさのため調整している。